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父と母がやってきた①番岳

 11月3日~6日にかけて、奈良から父と母、大阪から伯父が五島列島に私たちを訪ねて来てくれて、休みを取って、今まで行きたくて行けていなかったいろんな場所を一緒に巡った。もっとも印象に残ったのは、島で一番高い場所「番岳」。島のすべてを見渡すことができる山頂の展望台からの夕やけは、これまで見たどんな風景画よりも美しかった。

 南の曽根方面から番岳山頂への登山口は2ヶ所あり、私たちはよく分からずに(訪れた時には登山口の情報を把握してなくて、あとから大変なことになった)行けるところまで車で上って、最初に目に付いた登山口から私と母と伯父で山頂を目指した(しんどいのが嫌いな父は、登山口に停めた車で待つと言うので放っておいた)。事前のリサーチでは「登山口からすぐに頂上に着いたのでびっくりした」という情報があり、気軽な気持ちで山頂へと続く階段を登り始めたが、ひたすら登れども山頂に着く気配がない。母は息を切らし、登ってきたことを後悔し始めたころ、舗装された道路につながる2番目の登山口に到着。

 「ここまで車で来れたんだ」「帰りはここから車道を下りて帰ろう!」

 少し元気を取り戻して登山を再開。2番の目の登山口からは5分もかからず頂上に到着してしまった。

 頂上は登山道からは想像できないほど開けていて、山の斜面で穂をたれたススキが夕やけに染まっている。早まる気持ちを抑えながら展望台を駆け上がると、今までに見たことのない大きな海が広がっていた。海は夕日に照らされ、薄紫色に輝いている。遠くには赤色の頭ヶ島大橋や上五島空港が見える。雲が多く、水平線に沈む夕日を見る事はできなかったけど、美しくて穏やかで、静かな至福の時間だった。

 薄暗くなり始めたころ、2番目の登山口から車道を下りて最初の登山口を目指す。おそらくこっちだろうという道を選び、てくてく歩き始めたが、行けども行けども登山口は見当たらない。カーブにさしかかるたびに次は車が見えるんじゃないかと思いながら、何度も期待を裏切られる。だったら父に車で上の登山口まで上ってきてもらおうと思って父の携帯に電話をするが、電波が悪くてつながらない。やっとつながったと思って「車で上ってきて」と何とか伝えたが、父の車が上ってくる気配がない。そうこうしているうちに日は沈み、どんどん暗くなってきた。

 「一度引き返そう」。焦りと不安とこのルートを選んだ自分への怒りで早足になりながら、下ってきた道を再び登り、山頂にたどり着き、さっきとは逆の道を歩き始めた。車道が終わり、途中で林道になり、それでもいつかはどこかにたどり着くと思って携帯電話のライトを頼りに進んでいった。林道の先は、草が生い茂り、行き止まりになっていた。じゃあ道はどこにあるんだろう。もしかしたら全然別の道を歩いてきたのかもしれない。最初に登ってきた山道は真っ暗で、危なくて引き返せない。携帯もつながらない。とにかく山頂に戻ろう。途方に暮れ、泣き出したい気持ちで空を仰ぐと、無数の星がキラキラと輝いていた。あまりにもきれいで、大の大人が3人で迷子になってる状況がおかしくなって、なんだか笑えてしまった。山頂近くでなんとか近くの宿や父に山頂を目指してもらえないかと伝え、あとは動かずじっと助けを待った。全然別の道に来ているかもという大きな不安を抱えながら。だから、車のライトが私たちを照らした瞬間の安堵感は、半端じゃなかった。山頂の景色の美しさも、迷子になった苛立ちや情けなさも、全部が吹き飛ぶほどうれしかった。現れたのは父だった。正義のヒーローに見えた。

 しんどくてなさけなくてどうしようもなかったけど、一生忘れられない思い出になった。ああ、無事でよかった。いつか番岳で、水平線にどっぷりと沈む真っ赤な夕日に巡り会えますように。そして私たちみたいに遭難する人がでませんように…。

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