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父と母がやってきた②キリシタン洞窟

 キリシタンの迫害があったことを静かに伝える場所。海上から眺めたことはあったけど、いつか洞窟に降り立ち、この島のキリシタンの歴史にゆっくりと思いを馳せてみたいと思っていた。その思いが早くも叶う。カクレキリシタンとしての信仰を守る坂井さんが船主を務める「祥福丸」に乗り、私たちは桐古里郷の深浦港から、キリシタン洞窟へと向かった。

 真っ白な若松大橋を遠くに眺めながら、船は若松瀬戸を抜け、颯爽と島の南端を目指して進む。私は祥福丸の最先端にどっかりと腰を下ろす。目の前に広がるのは、キラキラと輝く海と、遠くに浮かぶ島々のシルエットだけ。まるで青だけで描かれた風景画のように美しい。

 景色にうっとりしていると、前方に岩の穴が子を抱くマリア像に見える「ハリノメンド」が現れた。遠くから眺めることしかできないその姿は、海の上に現れた聖女のようだ。自然と静粛な気持ちになる。さらに先の岩山に、真っ白なキリスト像が見えてきた。船が接岸し、岩山に飛び移る。海上から見ていたよりも岩山は大きく、足場は険しい。慎重に足場を確保しながら、キリシタンの方々が身を隠していたという場所を目指す。海上からは見えない場所に、大きな洞窟の穴がある。岩を乗り越え、洞窟に足を踏み入れると、波の音が急に静まり返る。中は広く、確かに一時的に身を隠すことはできる。ただ、台風が来れば波に飲み込まれるかもしれないし、どうやって水を確保すればいいのか想像もつかない。息を殺し、終わりの見えない日々を過ごすには、過酷すぎると思った。洞窟を抜けて目に飛び込んできたキリスト像が、そんな過去を温かく包み込んでいるように思えて、まぶしかった。

 港へ戻る途中、船主の坂井さんにお願いをして、白亜の桐教会を海から眺めさせていただいた。コバルトブルーの海に抱かれて建つ桐教会はとても美しくて、私はドキドキしながらシャッターを切り続けた。時が止まっている中で私たちだけが動いているのではと感じてしまうほど、静かで穏やかな時間。こんな時間の流れ方があるんだと、島に来て私は初めて知った。

 このクルーズは、私のとっておきの島の宝。大切な人が島に来たら、また絶対に案内しよう思った。

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